福岡県糸島市で毎年開催され今年(2018年)26回目を迎えるSUNSET LIVE。
50組を超えるアーティストが集うSUNSET LIVE 2018 を、今年も楽しみにされている方がたくさんおられると思います。
そんなSUNSET LIVE に今年は、水素エネルギーの研究で世界から注目されている九州大学が参加し、燃料電池自動車(FCV)からの電力供給でライブ会場を盛り上げます。
そのきっかけをつくられ、当日も燃料電池自動車と共にライブ会場にお越しになるお二人、
九州大学(水素エネルギー国際研究センター)学術研究員の藤田美紀さん
九州大学(次世代燃料電池産学連携研究センター)准教授の西原正通さん
にSUNSET LIVEへの参加の経緯と、水素エネルギーについてお話をお伺いしました。
燃料電池自動車(FCV)とは。
燃料である水素と空気中の酸素を化学反応させる燃料電池から電気を取り出し、モーターで走る電気自動車。CO2を排出せず、音も静かなエコカーで、発電機としても使用できる。水素ガス満タンで、ホンダ クラリティ FUEL CELLの走行距離は約750km、トヨタ MIRAIは約650km。
ーー:どのような経緯でSUNSET LIVE 2018に燃料電池自動車が登場することが決まったのでしょうか?
藤田さん:2年ほど前に「水素エネルギーのことをもっと身近に感じて欲しい」という想いから、九州大学の地元である糸島の飲食店を会場に、参加者が水素や研究の話をするサイエンスカフェを企画・開催しました。
参加者が水素エネルギーのことを知り、楽しそうに会話をしている様子から、もっと多くの方に水素エネルギーと関わってもらえる場を作りたいと思いました。
そして、音楽が好きだったということ、糸島で開催されるSUNSET LIVEのテーマが“ Love&Unity 〜大いなる自然とその恵みに感謝〜 ”だったことなどから、SUNSET LIVEと水素エネルギーに「自然に優しい」という共通点を感じ、SUNSET LIVEに水素エネルギーを掛け合わせることができないだろうかと考えるようになりました。
そして、主催者である林さんとご縁があり、SUNSET LIVEと九州大学のコラボが実現することになりました。
ーー:今回のSUNSET LIVEでは具体的にはどのようなことをされるのでしょうか?
九州大学が参加した野外イベント会場での実証の様子
ホンダ クラリティFuell Cell(燃料電池自動車)とパワーエクスポーター9000(給電器)
藤田さん:九州大学は、水素から電気を作る燃料電池自動車(FCV)を使って、電力供給を行ったり、水素エネルギーや燃料電池の研究紹介や、水素エネルギーを利用した社会のことをご説明したりします。
具体的には、九州大学の水素ステーションで再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電、地熱発電などから生成されるエネルギーのことです。)から製造された水素の一部をFCVに充填し、水素を電気に換えながら自動車としてSUNSET LIVE会場まで走り、そして会場では電源として出展している店舗に電力供給します。
参加者の皆さんに水素エネルギーをより身近に体験していただける企画として、携帯の充電ができるエリアも用意いたします。
燃料電池での発電は、出るのは水だけでCO2を排出しない、環境にも優しいエネルギーですので、自然の恵みに感謝する音楽イベントのテーマにもぴったりの企画だと思います。
ーー:水素エネルギーはなぜ今注目されているのでしょうか?西原さん:水素エネルギーが、今注目されているのは、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)の枯渇への危惧や地球温暖化など環境問題への関心が高くなってきたという背景があります。そこで化石燃料に代わり、太陽光発電や風力発電、地熱発電など再生可能エネルギーの積極的な利用が求められるようになりました。
しかし、それらの再生可能エネルギーにも課題があります。それは、発電量が地域や天候に大きく左右されてしまうため、電力を安定に供給できないという問題です。
西原さん:水素は、長期保存をしても電池と異なり放電することがないためエネルギーがほとんど減りません。さらに水素は、圧縮して小さな容量で多くのエネルギーを貯めておくことができ、この貯めた水素を燃料電池に流すと、電気を取り出すことが可能です。
水素の製造と保存、発電が容易になると、例えば夏場の日が長い時に、自宅の太陽光パネルで作った電気を使って水素を作って貯めておきます。その貯めておいた水素を冬場の日が短い時期に使って、燃料電池で発電し、家庭で使う。
こういったエネルギーの地産地消が可能となります。私たちは、この水素を使ったエネルギーシステムの実現に向けて研究を行っています。
ーー:現在、水素エネルギーは私たちの生活の中でどのような形で利用されていますか?
藤田さん:私たちに身近なところでしたら燃料電池自動車(FCV)やエネファーム(家庭用燃料電池)などです。
西原さん:ハウステンボスにある「変なホテル」の一部は再生可能エネルギーと水素エネルギーのハイブリッドで運営されています。
ーー:今後、ライブや音楽イベントに何らかの形で水素エネルギーが関係することはあるのでしょうか?
藤田さん: 2017年5月に、LUNA SEAのSUGIZOさんが、世界初の水素燃料電池コンサートを開催され、注目を集めました。
水素と燃料電池から作られた電気は環境に良いだけでなく、音にも良いそうです。それは、電気を作るところから使うところまでの距離を短くできる点にあると言われています。例えば、発電所から会場のコンセントまで何百kmもの距離があると、ノイズや雑音も入りやすくなります。
またFCVからは全く臭いや音が出ないので、電気を用いる屋外の音楽イベントや野外活動会場にも向いています。
ーー:今後、 SUNSET LIVEは水素エネルギーだけで運営をすることは可能なのでしょうか?
西原さん:全てを水素エネルギーや再生可能エネルギーからまかなうのは、様々な課題があり、今すぐには難しいと思います。ただ、SUNSET LIVEはエコを意識されているので、少しずつ水素エネルギーや再生可能エネルギーでまかなうことができたらと考えています。
また、SUNSET LIVEで発生したゴミから電気や水素を作って廃棄物もエネルギーとして循環できるシステムを作ることができれば良いと考えています。
ーー:燃料電池自動車と電気自動車の違いは何ですか?
藤田さん:仕組みは両方とも電気を使ってモーターで走る車ですが、電気自動車(EV)はバッテリーに貯めた電気で走る、燃料電池自動車(FCV)は水素を燃料として、電気を作りながら走るという違いがあります。
また、現在、ガソリンから電気を作りながら走る車も市販されていますが、FCVはエコなエネルギーである水素から電気を作り出します。
FCVは満充填時間が約3分で走行距離が約750Kmですので、ガソリンエンジン自動車と同じような使い方ができるのはFCVでしょう。ただし、現時点では水素ステーションの数がまだ少ないため普及に向けての課題はあります。
国も水素ステーションの設置を急ピッチで進めていて、2020年までに160か所程度設置する計画です。現在、北部九州には水素ステーションが11箇所あります。糸島にも水素ステーションがありますので、ぜひ「H2」という表記を見つけてみて下さい。
ーー:ガソリン自動車と比較して、燃料電池自動車の走行距離や水素の料金はどのような感じでしょうか?
西原さん:トヨタのMIRAIやホンダのクラリティFUEL CELLは、タンクを満タンにするのに約5Kgの水素が必要で、値段は約5000円くらいです。満タンで約750km走れるので、一般的なガソリンエンジン車と燃費の点ではいい勝負をしていますよ。
ーー:最後に、SUNSET LIVE2018で気になるアーティストを教えてください。
西原さん:もちろん多くのアーティストさんが気になっています。中洲ジャズで聞いたことをきっかけにファンになったEmi Meyerさん。あとは、PUSHIMさんやNulbarichさんも気になっています。
実は「Go! Go! Sunset Players!!」にも投票に行き、個人的にはSANOVAさんも楽しみにしております。
藤田さん:私も今までいろいろなアーティストをSUNSET LIVEで楽しませていただきましたが、今回出演するシーナ&ロケッツの鮎川誠さんはカッコ良くて大好きです。九州大学卒業ということもあり応援しています。
今年は、Palm Stageに石野卓球さんや水曜日のカンパネラさんが登場しますし、GLIM SPANKYさんも観てみたいですね。
”化石燃料を燃やして動かす社会から再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーを用いる社会へのシフトが起こることで、私たちの生活の在り方や様々な産業にも変化があると思います。ダーウィンが『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化に適応できる者である。』と言ったように、社会の変化に対応できるように私たちも研究していきたい。”
とお話くださった西原さん。
終始、楽しそうに水素エネルギーのことを分かりやすくお話くださいました。
”今、私たちは、エネルギーの転換期に生きています。エネルギーが変わるタイミングは、100年に一度くらいです。まさにその時代に生きて、新しいエネルギーの研究に関わることができて、とてもラッキーなことだと感じています。”
とおっしゃたのは藤田さん。
野外の音楽イベントに地元の大学の研究というソフトとハードの組み合わせからどんなことが生まれるのか、本当に楽しみです。
大好きなSUNSET LIVEに、水素エネルギーでの電力供給というかたちで参加できることにとても感動されていて、ワクワクされているのが、お話くださる様子からとても伝わってきました。
今年のSUNSET LIVE の会場には素晴らしい音楽と共に、未来を感じることのできる燃料電池自動車も登場します。
ぜひ、水素エネルギーを身近に体感し、西原さんや藤田さんとお話されてみてはいかがでしょうか!
左:ホンダの燃料電池自動車クラリティ FUEL CELL
右:トヨタの燃料電池自動車 MIRA
九州大学水素ステーションにて撮影
九州大学 水素利用プロセス研究室